20世紀・シネマ・パラダイス

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スタンリー・キューブリック

Stanley Kubrick

1928-1999 (アメリカ)

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 ・『2001年宇宙の旅』 (1968年) …キューブリックの名を不滅のものとしたSF映画の金字塔。哲学的な作品は、その難解さ故に、当初は賛否両論だった。アカデミー賞作品賞の候補か ら漏れたことは、「歴史的なミス」  と度々言及されている。同賞の監督賞、脚本賞、美術監督・装置賞、特殊視覚効果賞の4部門でノミネートされ、キューブリックが特殊視覚効果賞を受賞した。
 キューブリックが手塚治虫に美術監督をオファーしていたというエピソードも。
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ケア・ダレー
作家のアーサー・C・クラーク(左) とキューブリック監督

 <映画音楽> 音楽のセンスの良さでも映画ファンを唸らせた。『2001年宇宙の旅』 では、映像とクラシック 音楽を見事に融合させ、一部のクラシック音楽ファンにしか知られていなかったリヒャルト・シュトラウスの 
 「ツァラトゥストラはかく語りき」 等の楽曲を、映画ファンにも広く認知させた。以後の作品においても、新たに映画音楽を作曲させることよりも、既存の音楽を使用することを好んだ。編集の段階 でフィルムを観ながら、映像にマッチする音楽を探し求め、何百枚ものレコードを聞いていたという。完全主義者のキューブリックは映画音楽も自分でコントロールしていた。
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 ・ 幻のナポレオン映画  … フランス皇帝ナポレオンに惹かれ、前述の通り、数百冊にも及ぶ書物を読み、脚本を執筆していた。『2001年宇宙の旅』 と同じく、MGM社とタイアップして製作する予定だったが、撮影開始前 (1969年1月頃) に同社がプロジェクトから撤退。当時のMGM社は組織や人事が度々改編されており、同社のゴタゴタの煽りを食らってしまった。以後タイアップすることになったワーナー・ブラザース社は、ナポレオンの大作映画 『ワーテルロー』 (1970年/主演:ロッド・スタイガー が興行的に不振だったこともあり、資金提供を拒んだ。

 ・『時計じかけのオレンジ』 (1971年) … 非行に明け暮れる若者と、彼等を非人道的に管理しようする近未来社会を描いた問題作。アカデミー賞では、作品賞、監督賞、脚色賞、編集賞の4部門でノミ ネートされたが、無冠に終わった。作品賞、監督賞を受賞した 『フレンチ・コネクション』 のウィリアム・フリードキン監督は、「個人的には、『時計じかけのオレンジ』 が最も優れた作品だと思う 」 とコメントした。
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マルコム・マクダウェル
撮影時。マルコム・マクダウェル(左) と キューブリック監督

 <演出> 『シャイニング』 の 撮影時、ジャック・ニコルソンは同じシーンを190回も演技させられ、シェリー・デュヴァルはストレスから髪の毛が抜け落ちた…等々、俳優に厳しく、テイ ク数が多い事でも有名だった。
 『ロリータ』、『博士の異常な愛情』 のピーター・セラーズには即興で演技させ、『時計じかけのオレンジ』 のマルコム・マクダウェルには、「好きなだけリハーサルしろ 」 と言って、彼の演技を見守りながらカメラのアングルを考えていたという。
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 俳優にとって、キューブリックとの撮影は修羅場だったようであるが、出演者の多くが、キューブリックを最高の監督と称えている。俳優から最高の演技を引き出す名演出家でもあった。キューブリックは、演技指導、演出面ではエリア・カザン監督を称賛していたという。
 (左の写真) 『シャイニング』 撮影時。左から、キューブリック監督、
  ジャック・ニコルソン、シェリー・デュヴァル


 ・『バリー・リンドン』 (1975年) … 18世紀の欧州を舞台に、貴族に成り上がろうとした青年の数奇な人生を描いた。
 作品の評価は高かったが、興行的には振るわず、特にアメリカでは大苦戦を強いられた。題材が地味なため、若いファンには受け入れられなかったようである。
 アカデミー賞では、作品賞、監督賞、脚色賞など7部門でノミネートされ、撮影賞、美術監督・装置賞、歌曲・編曲賞、衣装デザイン賞の4部門で受賞した。
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ライアン・オニール
撮影時。ライアン・オニール(後) とキューブリック監督

 ・『シャイニング』 (1980年) … ホラー作家スティーヴン・キングの同名小説の映画化作品。大ヒットし、今でもカルト的な人気を誇るホラー映画の傑作だが、原作の内容を大きく脚色したた め、原作者とその愛読者の一部からは批判もされた。プレミア上映時は146分の作品だったが、一般公開前にキューブリックがラストの3分をカット。その中 には、132テイクも費やしたシーンも含まれていたとのエピソードも。日本を含む北米以外では119分にカットされたバージョンが公開された。 
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ジャック・ニコルソン
撮影時。ジャック・ニコルソン(右)と
 ・1997年、原作に忠実なTVドラマ 「シャイニング」 が全米で放映された。スティーヴン・キングが 「映画への批判を自重する 」 ことを条件に、映像化の権利を保持していたキューブリックから許可を得て製作された。 

 <撮影> キューブリックの異才ぶりが最も発揮されたのが撮影面。カメラ小僧、プロのカメラマンを経て映画監督となっただけに、カメラやレンズに関する知識は豊富で、ベテランのカメラマンや撮影機器の製造業者も舌を巻いたという。
 『バリー・リンドン』 では、18世紀の雰囲気を描くため、高感度のレンズとフィルムを開発し、夜の屋内シーン はロウソクの光だけで撮影。世界中のカメラマンが 「魔法のカメラ」 に驚嘆し、その映像の美しさは黒澤明監督も絶賛した。『シャイニング』 では、ステディカムを駆使した映像も話題になった。若い頃、 カメラワークではマックス・オフュルスを称賛していたという。 Stanley_Kubrick-7
 * マックス・オフュルス … 米映画 『忘れじの面影』 (1948年)、仏映画 『輪舞』 (1950年) 等を撮ったドイツ人の映画監督。

 ・『フルメタル・ジャケット』 (1987年) …  ベトナム戦争を題材にした作品であるが、イギリスにセットを作って撮影された。一般的な人気、評価では、先に公開されていた 『ディア・ハンター』 (1978年)、『地獄の黙示録』 (1979年)、『プラトーン』 (1982年) といったベトナム戦争映画を上回ることが出来なかった。
 キューブリック監督は日本語字幕にもチェックを入れ、翻訳者を交代させていたという。自作の全てをコントロールする完全主義者ぶりを垣間見せていた。
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左から、ヴィンセント・ドノフリオ、マシュー・モディーン、
R・リー・アーメイ

撮影時。マシュー・モディーン(左)と

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 <編集> キューブリックが最も好んでいたのが編集の仕事だったという。『博士の異常な愛情』 では、ラストのパイ投げのシーンをカットする等、脚本には囚われずに作品を仕上げている。1日18時間、何日間も ぶっ通しで作業することもよくあったというが、おそらく、時間に追われて四苦八苦していたというよりは、寝食も忘れて夢中になり、作業に没頭していた、至福の時だったのではないだろうか。

 ・1997年、ヴェネツィア国際映画祭の栄誉金獅子賞を受賞。

 ・『アイズ ワイド シャット』 (1999年)… 実に12年ぶりの新作。倦怠期にある夫婦の嫉妬をテーマにした作品で、当時、実際に夫婦だったトム・クルーズとニコール・キッドマンが起用された。 1996年11月にスタートした撮影は、1998年1月まで続いた。途中、長期の休暇や中断がなく、連続での撮影期間としてはギネス記録だという (1998年5月から6月に追加の撮影も行っている)。主役の2人とは無期限の契約を締結。当時、興行的に最も価値が高かった人気スターのトム・クルーズを1年以上もキープ出来たこ とは、キューブリック監督がSpecial  な存在だったことの証しでもある。
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ニコール・キッドマン と トム・クルーズ トム・クルーズ(左)、ニコール・キッドマンと

 ・1999年70歳で他界。『アイズ ワイド シャット』 の編集が完了し、トム・クルーズ、ニコール・キッドマン、ワーナー・ブラザース社の関係者と極秘の試写会を実施してから僅か6日後、就寝中に心臓発作で 亡くなった。映画製作のあらゆる面をコントロールし、神経を集中させての緊張した日々は、高齢のキューブリックの体には、大きな負担となっていたのかも知 れない。
 完全主義者故に作品数は少ないが、多くの映画人に多大な影響を及ぼし、映画史で異彩を放ち続けている。
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 ・2011年、キューブリックが企画し、スティーヴン・スピルバーグと共同で製作の準備をしていた 『A.I.』 (監督:スティーヴン・スピルバーグ) が公開。

 ・2013年、スティーヴン・スピルバーグが、キューブリックの脚本に基づいた 「ナポレオン」 のTVドラマシリーズを製作すると発表したが、どうやらお蔵入りとなったようだ。

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