エリア・カザンー映画と舞台で多くの名作を手掛けた社会派の名匠ー 20世紀・シネマ・パラダイス

20世紀・シネマ・パラダイス

エリア・カザン

Elia Kazan

　　1909-2003 （アメリカ）

　　◆　代表作


ブルックリン横丁 A Tree Grows in Brooklyn (1945年/アメリカ）	紳士協定 Gentleman's Agreement (1947年/アメリカ）

欲望という名の電車 A Streetcar Named Desire (1951年/アメリカ）	革命児サパタ Viva Zapata! (1952年/アメリカ）

波止場 On The Waterfront （1954年/アメリカ）	エデンの東 East of Eden (1955年/アメリカ）

草原の輝き Splendor in the Grass (1961年/アメリカ）	アメリカアメリカ America, America (1963年/アメリカ）

◆　映画と舞台で多くの名作を手掛けた社会派の名匠

　・1909年、オスマン帝国(現トルコ) のイスタンブールにてギリシャ人の両親の下に生まれ、４歳の時にアメリカへ移住した。名門ウィリアムズ大学を卒業後、イェール大学演劇大学院へ進んだが２年で中退し、ニューヨークの劇団「グループ・シアター」に入団した。

　・当初は俳優をしており、ブロードウェイでクリフォード・オデッツの戯曲「Waiting for Lefty」(1935年）等に出演した。
　尚、「Waiting for Lefty」の「Lefty」は左派の意で、カザンはストライキを訴えるタクシー運転手を演じた。
　（右の写真）舞台「Waiting for Lefty」
　中央で両手を挙げているのがエリア・カザン
　

　・「グループ・シアター」は共産主義に傾倒した劇団で、カザンも1934年から1年半共産党に入党しており、この事がキャリアに暗い影を落とすことになる。

　・「Casey Jones」(1938年）で初めて舞台演出を手掛け、タルラー・バンクヘッドとフレドリック・マーチを主演に迎えた舞台劇「The Skin of Our Teeth」(1942年）でニューヨークドラマ批評家協会賞の監督賞を受賞。一流演出家の仲間入りを果たした。

　・映画界での初仕事も俳優としてだった。著名な写真家ラルフ・スタイナーが撮った『Cafe Universal』(1934年）で銀幕デビューし、ジェームズ・キャグニー主演の『栄光の都』(1940年）等、数本の作品に出演した。
　（左の写真）『栄光の都』エリア・カザン（中央）、ジェームズ・キャグニー（右）

　・ニューヨークの下町で暮らす貧しい家族を描いた人情劇『ブルックリン横丁』(1945年）で映画監督としてメジャー・デビュー。ジェームズ・ダン(助演男優賞）、ペギー・アン・ガーナー(子役賞）の２人にアカデミー賞をもたらした。


『ブルックリン横丁』(1945年）ペギー・アン・ガーナー、ジェームズ・ダン	『ブルックリン横丁』撮影時。左から、エリア・カザン、ジェームズ・ダン、テッド・ドナルドソン、ドロシー・マクガイア、ペギー・アン・ガーナー


『大草原』（1947年）スペンサー・トレイシー、キャサリン・ヘップバーン	『大草原』撮影時キャサリン・ヘップバーン、スペンサー・トレイシー（右）と


『影なき殺人』（1947年）ダナ・アンドリュース、ジェーン・ワイアット	『影なき殺人』撮影時ジェーン・ワイアット、ダナ・アンドリュース（右）と


『紳士協定』(1947年）ドロシー・マクガイア、グレゴリー・ペック	『紳士協定』撮影時ドロシー・マクガイア、グレゴリー・ペック（中央）と

　・ユダヤ人差別にメスを入れた社会派作品『紳士協定』(1947年）がアカデミー賞の７部門で８つのノミネートを受け、作品賞、監督賞、助演女優賞(セレステ・ホルム）の３部門で受賞。映画監督としても一流の地位を確立した。
　（右の写真）オスカー像を手にするエリア・カザン

　・古巣のブロードウェイでも演出家・舞台監督として活躍。以下、この時期の代表作。

　アーサー・ミラーの戯曲「All My Sons」(1947年）を演出して、第１回トニー賞の監督賞を受賞。
　（左の写真）作家のアーサー・ミラー（右）と

　テネシー・ウィリアムズの戯曲「欲望という名の電車」（1947年）を演出。２年に亘るロングランの大ヒット作となり、主演のジェシカ・タンディにトニー賞の主演女優賞をもたらした。
　（右の写真）舞台「欲望という名の電車」
　ジェシカ・タンディ

　アーサー・ミラーの戯曲「セールスマンの死」(1949年）を演出。トニー賞の演劇作品賞を受賞し、２度目の監督賞も受賞した。
　（左の写真）舞台「セールスマンの死」
　リー・J・コッブ、ミルドレッド・ダンノック

　・1947年、「グループ・シアター」の仲間と、かの有名な俳優養成学校「アクターズ・スタジオ」を創設。
　「メソッド演技法」の指導を受けた数多くの名優たちを輩出し、ハリウッドに新風を送り込むこととなった。
　（右の写真）「アクターズ・スタジオ」にて

　・肌の白い黒人女性の苦悩を描いた『ピンキー』(1949年）、セミ・ドキュメンタリー・タッチのフィルム・ノワール作品『暗黒の恐怖』(1950年）を監督。


『ピンキー』(1949年）ジーン・クレイン、エセル・ウォーターズ	『ピンキー』撮影時ジーン・クレイン（左）、エセル・バリモアと


『暗黒の恐怖』(1950年）リチャード・ウィドマーク、ポール・ダグラス	『暗黒の恐怖』撮影時リチャード・ウィドマーク（中央）、カザン監督（右）

　・『欲望という名の電車』(1951年）はアカデミー賞で作品賞、監督賞など12部門でノミネートされ、主演女優賞(ヴィヴィアン・リー）、助演男優賞(カール・マルデン）、助演女優賞(キム・ハンター）、美術賞(白黒部門）の４部門で受賞した。


『欲望という名の電車』(1951年）マーロン・ブランド、ヴィヴィアン・リー	『欲望という名の電車』撮影時ヴィヴィアン・リー（左）、キム・ハンターと

　・1952年、ハリウッドに‟赤狩り”の嵐が吹き荒れる中、共産主義者との嫌疑を受けたエリア・カザンは、下院非米活動委員会(HUAC)の聴聞会で共産主義者８名の名前を密告した。

　・メキシコ革命の英雄を描いた『革命児サパタ』(1952年）は、アカデミー賞で主演男優賞(マーロン・ブランド）、脚本賞(ジョン・スタインベック）など５部門でノミネートされ、助演男優賞(アンソニー・クイン）を受賞した。


『革命児サパタ』(1952年）マーロン・ブランド、ジーン・ピータース	『革命児サパタ』撮影時マーロン・ブランド（右）と

　・共産主義のチャコスロバキアから自由の国アメリカへの逃亡を図るサーカス団を描いた『綱渡りの男』(1953年）を監督。その後、ブロードウェイに戻って演出した「お茶と同情」(1953年）は２年に亘るロングランの大ヒットとなった。
　* 映画『お茶と同情』（1956年）はヴィンセント・ミネリが監督した。


『綱渡りの男』（1953年）アドルフ・マンジュー、フレドリック・マーチ（右）	舞台「お茶と同情」主演のデボラ・カーと

　・ニューヨークの港を牛耳るマフィアのボスに立ち向かう港湾労働者を描いた社会派の名作『波止場』(1954年）は、アカデミー賞の10部門で12のノミネートを受け、作品賞、監督賞、主演男優賞（マーロン・ブランド）、助演女優賞（エヴァ・マリー・セント）、脚本賞、撮影賞（白黒部門）、美術賞（白黒部門）、編集賞の８部門で受賞した。


『波止場』（1954年）マーロン・ブランド、エヴァ・マリー・セント	『波止場』撮影時マーロン・ブランド（右）と

　・ジョン・スタインベックのベストセラー小説を映画化した『エデンの東』(1955年）では、「アクターズ・スタジオ」出身の新人ジェームズ・ディーンを主役に抜擢。アカデミー賞では監督賞など４部門でノミネートされ、助演女優賞(ジョー・ヴァン・フリート)を受賞した。


『エデンの東』（1955年）ジェームズ・ディーン	『エデンの東』撮影時ジェームズ・ディーン（左）と

　・ブロードウェイでテネシー・ウィリアムズの戯曲「熱いトタン屋根の猫」(1955年）を演出。舞台はヒットし、リチャード・ブルックス監督によって映画化（1958年）もされた。


舞台「熱いトタン屋根の猫」（1955年）ベン・ギャザラ、バーバラ・ベル・ゲデス、バール・アイヴス	バール・アイヴス（左）と

　・同じくテネシー・ウィリアムズ作の『ベビイ・ドール』(1956年）を監督。アカデミー賞では主演女優賞(キャロル・ベイカー）など４部門でノミネートされたが無冠に終わった。


『ベビイ・ドール』（1956年）カール・マルデン、キャロル・ベイカー	『ベビイ・ドール』撮影時右から、カール・マルデン、キャロル・ベイカー、カザン監督


『群衆の中の一つの顔』(1957年）アンディ・グリフィス、パトリシア・ニール	『群衆の中の一つの顔』撮影時手前左から、パトリシア・ニール、カザン監督、アンディ・グリフィス

　・ブロードウェイで「J.B.」を演出。トニー賞の演劇作品賞を受賞し、エリア・カザンは３度目の監督賞を受賞した。
　（左の写真）舞台「J.B.」
　レイモン・マッセイ（左）、クリストファー・プラマー


『荒れ狂う河』（1960年）リー・レミック、モンゴメリー・クリフト	『荒れ狂う河』撮影時。リー・レミック、モンゴメリー・クリフト（後）と

　・思春期の男女の苦悩を描いた青春映画の名作『草原の輝き』(1961年）を監督。アカデミー賞では主演女優賞（ナタリー・ウッド）と脚本賞の２部門でノミネートされ、脚本賞を受賞した。


『草原の輝き』（1961年）ウォーレン・ベイティ、ナタリー・ウッド	『草原の輝き』撮影時ウォーレン・ベイティ（左）、ナタリー・ウッドと

　・1962年、自身と同じくオスマン帝国からアメリカへ移住した叔父をモデルにした小説「アメリカアメリカ」を執筆し、翌年に映画化。アカデミー賞では作品賞、監督賞、脚色賞、美術賞（白黒部門）の４部門でノミネートされた。エリア・カザンは製作と脚本も兼ねていたので３部門で候補者となったが、受賞は美術賞（白黒部門）のみに終わった。


『アメリカアメリカ』（1963年）スタティス・ヒアレリス（右）	『アメリカアメリカ』撮影時スタティス・ヒアレリス（後）と

　・自ら執筆した小説を映画化した『アレンジメント/愛の旋律』(1969年）、息子のクリス・カザンが脚本を執筆した『突然の訪問者』(1972年）を監督。


『アレンジメント/愛の旋律』(1969年）フェイ・ダナウェー、カーク・ダグラス	『アレンジメント/愛の旋律』撮影時カーク・ダグラス（右）と


『突然の訪問者』(1972年）ジェームズ・ウッズ（銀幕デビュー作）	『突然の訪問者』撮影時右から、ジェームズ・ウッズ、カザン監督

　・『波止場』の製作者サム・スピーゲルと再び組み、F・スコット・フィッツジェラルドの未完の小説の映画化作品『ラスト・タイクーン』(1976年）を監督。同作を最後に映画界から引退した。


『ラスト・タイクーン』（1976年）テレサ・ラッセル、ロバート・デ・ニーロ	『ラスト・タイクーン』撮影時ジャンヌ・モロー、ロバート・デ・ニーロ（中央）と

　・1988年、自伝を出版。

　・1998年度のアカデミー賞で名誉賞を受賞。コンペ部門の賞ではないので、受賞は前もって発表された。‟赤狩り”の時代に仲間の名を明かしたカザンへの名誉賞贈呈は賛否両論で世間を揺るがした。

　・『紳士協定』で主役を演じ、アカデミー協会会長も務めたグレゴリー・ペックは、「Work」と「Life」は分けるべきだ、と受賞を擁護するコメントを出した。
　授賞式会場前には、エリア・カザンを「裏切者」、「密告者」と非難するプラカードを掲げたデモ隊が500人近くも集まったという。
　授賞式で御年89歳の名匠が登場すると、スタンディングオベーションで迎える者もあれば、着席したままで拍手もしない者もいた。　
　（右の写真）名誉賞のオスカー像を手にするエリア・カザン

　アカデミー賞名誉賞の受賞シーン。プレゼンターはマーティン・スコセッシとロバート・デ・ニーロ

　・エリア・カザンの監督作品は『ブルックリン横丁』以後19作と決して多くはないが、アカデミー賞の作品賞、監督賞を２度獲得し、オスカー候補となった俳優は21名、受賞者は９名にもなる (『ブルックリン横丁』のペギー・アン・ガーナーも加えると10名）。

　・2003年、94歳で他界。

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