20世紀・シネマ・パラダ
イス
◆ ヒッチ
コック流エンターテインメントのてんこ盛り
ニューヨークで広告業を営むロジャー・ソーン
ヒル は、プラザホテルのラウンジで商談中、宿泊客の キャプラン という男と間違えられ、2人組の男に誘拐された。
ソーンヒルは郊外の大きな屋敷 (タウンゼント邸) に連れて行かれた。ボス
(タウンゼンド?) が現れ、どこまで事情を知っているか話せと問い詰められた。人違いだと訴えたが信じてもらえず、大量の酒を無理やりに飲まされた。
泥酔状態で車に乗せられ、事故死に見せかけて殺されそうになった。間一髪のところで逃げ出
したが、飲酒運転の現行犯で警察に連行された。
翌日。ソーンヒルは刑事たちとタウンゼンド邸を訪ねた。タウンゼンドの妻だと称す女が出鱈
目な証言をし、刑事たちは女の証言を信じた。
ソーンヒルは車の盗難と飲
酒運転の罰金を支払って釈放された。
ソーンヒルは母親を連れてプラザホテルへ向かい、キャプランの部屋に侵入した。ルーム・
サービス係はキャプランの顔を知らず、ソーンヒルを見ても怪しみもしない。机の上には昨日のボスの写真が置いてあった。
ボスから電話が掛かってきた。身の危険を感じ、ソーンヒルがエレベーターに乗ると昨日の2
人組が乗り込んで来た。ソーンヒルは2人組を振り切ってタクシーに飛び乗った…。
ソーンヒルはタウンゼンドが演説をするという国連本部ビルへ向かった。タウンゼンドを呼び
出して会ってみると、ボスとは全くの別人だった。ソーンヒルがホテルで入手した写真を見せようとしたその時、2人組の1人が投げ放ったナイフがタウンゼン
ドの背
中に突き刺さった。ソーンヒルは犯人と間違えられ、その場から逃亡した。
政府の情報機関では、会議室に集まった面々が頭を抱えていた。彼等がスパイのヴァンダム を欺くためにキャプランという架空の人物を仕立てたために、無関係の人間が巻き込まれた。真相
を公表すれば、ヴァンダムの一味に潜入している密偵が危険にさらされてしまう。皆から教授 と呼
ばれている男は、ソーンヒルをそのまま逃亡させておくという判断を下した。
キャプランがシカゴへ向かったという情報を得たソーンヒルはシカゴ行きの特急に乗り、車中
で出会ったイヴ・ケンドール という女性と懇意になった。彼女はソーンヒルが指名手配犯だと知り
ながらも匿ってくれた。しかし、ソーンヒルに気づかれないように、同じ特急に乗車しているヴァンダムと連絡を取っていた。
シカゴに到着。ソーンヒルはイヴと別れ、キャプランが指定したという待ち合わせ場所に赴い
た。しかし、それはヴァンダムの一味が仕掛けた罠で、ソーンヒルは危うく命を落としかけた。
ソーンヒルはキャプランが宿泊しているというホテルへ向い、偶然にイヴと再会した。イヴが
怪しいと睨んだソーンヒルは、彼女が1人で外出するとその後を追った。果たして、イヴは骨董品のオークション会場でヴァンダムと合流していた。彼女はヴァ
ンダムの愛人だったのだ。
ソーンヒルはイヴとヴァンダムに悪態をつき、その場を後にしようとしたが、ヴァンダムの手
下たちが出入り口を固めていた。ソーンヒルは会場で騒ぎを起こし、警官に連行されることで危機を脱した。
ソーンヒルは警察署ではなく空港に連行され、教授に引き渡された。これまでの事情を説明さ
れ、イヴが政府側の密偵であることを打ち明けられた。そして、ヴァンダムがソーンヒルとイヴの関係を疑い始めたことで、危険な立場となった彼女を救うため
協力を求められた。
2人はヴァンダムの一味のアジトがあるサウスダコタ州へ飛んだ。
ソーンヒルはキャプランを名乗ってヴァンダムたちを呼び出し、イヴに拳銃 (空砲)
で撃たれる芝居を打った。ヴァンダムは事件に巻き込まれるのを恐れて立ち去った。
ソーンヒルはイヴと再会した。しかし、彼には知らされていないことがあった。イヴは任務を
続行するためにヴァンダムと一緒に国外へ飛び立つという。ソーンヒルは彼女を引き留めようとしたが、教授の部下に殴られて意識を失ってしまった…。
『北北西に進路を取れ』 予告編動画
VIDEO
◆ 主な出演者など
・ロジャー・ソーンヒル役 …
ケーリー・グラント Cary Grant
・イヴ・ケンドール役 … エヴァ・マリー・セイント Eva Marie
Saint
・ヴァンダム役 … ジェームス・
メーソン James Mason
・レナード役 … マーティン・ランドー Martin Landau
・教授役 … レオ・G・キャロル Leo G. Carroll
・MGM社と契約したヒッチコック監督は、長年、組むことを望んでいたゲーリー・クーパー の主演で 「メリー・ディア号の難破」
(1956年の小説)
を撮る予定だったが、脚本を任せたアーネスト・レーマンが、面白い作品にはならないだろうとして辞退。それならば他の作品でも、という話になった。
(右の写真) 左から、ケーリー・グラント、エヴァ・マリー・セイント、ヒッチコック監督、
ジェームス・メーソン
* 『メリー・ディア号の難破』 (1959年) … 『八十日間世界一周』 (1956年)
のマイケル・アンダーソンが監督。主演はゲーリー・クーパーと
チャールトン・ヘストン 。
・アーネスト・レーマンは、ヒッチコック監督が脈絡もなく語った
「ラシュモア山での追跡劇」、「国連での殺人事件」 、「CIAの囮捜査」
といった断片的なイメージを基にストーリーを執筆し始め、その後も創作活動に行き詰るとヒッチコック監督と会談してはヒントやひらめきを得てオリジナル脚
本を完成させた。
(左の写真) ヒッチコック監督とケーリー・グラント
* アー
ネスト・レーマン (脚本家・製作者) … アカデミー賞に6度ノミネート - 『麗しのサブリナ』 (脚本賞)、『北北西に進路を取れ』
(脚本賞)、『ウエストサイド物語』 (脚色賞)、『バージニア・ウルフなんかこわくない』 (作品賞と脚色賞)、『ハロー・ドーリー!』
(作品賞)
- 受賞には至らなかったが、2001年同賞名誉賞を受賞した。
・主人公はジェームズ・ス
テュアート が候補だったが、脚本作りが進むにつれ、ケーリー・グラントの方がイメージに合うという結論に達した。
ヒロインは、MGM社はシド・チャリシー の起用を要請したが、ヒッチコック監督がエ
ヴァ・マリー・セイントに決めた。
(右の写真) エヴァ・マリー・セント と ケーリー・グラント
・ソール・バス によるタイト
ル・デザイン、バーナード・ハーマンによる音楽も出色の出来栄え。ヒッチコック監督は本作を自身のイギリス時代の代表作 『三十九夜』 (1935年) のアメ
リカ版と捉えていたようである。ハラハラドキドキのシーンは勿論、主人公と金髪のヒロインのラブ・シーン、随所にちりばめられたコミカルなシーン等々、
ヒッチコック流のエンターテインメントがてんこ盛りの大ヒット作品。
・アカデミー賞では、脚本賞、美術賞(カラー部門)、編集賞の3部門でノミナートされたが
受賞には至らなかった。
AFI (アメリカ映画協会) が1996年に選定した 「アメリカ映画100年ベスト100」 で第40位に。ヒッチコック監督作品では
『サイコ』 (第18位)に次ぐ順位にランクされた。
◆ ヒッチコック監督 お約束のカメオ出演シーン
映画が始まって間もなく、バスに乗り遅れる男として登場。
◆ ピックアップ … エヴァ・マリー・セイント
Eva Marie
Saint 1924- (アメリカ)
・1924年、ニュージャージー州生れ。大学卒業後の1946年からTVで活動し始め、銀幕デビュー作の 『波止場』 (1954年/監督:エリア・カザン ) でアカデミー賞助演女優賞を受賞。
エリザベス・テイラー 、モンゴメリー・クリフト と共演した 『愛情の花咲く樹』 (1957年) 、『北北西に進路を取れ』 (1959年) 、ポール・ニューマン と共演した 『栄光への脱出』
(1960年) 等に出演。
『波止場』
(1954年) マーロン・ブランド と
『北北西に進路を取れ』
(1959年) ケーリー・グラントと
・1970年代以降はTVを中心に活動。『スーパーマン・リターンズ』 (2006年) にスーパーマンの地球での母親役として出演 (当時82歳) 。
『ニューヨーク 冬物語』 (2014年/当時90歳) でも元気な姿を見せた。