20世紀・シネマ・パラダ
イス
◆ アカデ
ミー賞の最多ノミネーション記録を樹立
演劇界最高の栄誉であるサラ・シドンズ賞が新進女優のイヴ・ハリントンに贈られた。史上最年少の受賞者となったイヴは今や演劇界の寵児であり、会場は盛大な
拍手に包まれた。
だが、イヴの総てを知る人々は複雑な心境で彼女の受賞を見守っていた…。
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…8ヶ月前。劇作家の妻カレン・リチャーズは、
夫のロイドを迎えにブロードウェイの劇場へ行き、楽屋口への通路に毎晩立っ
て
いる女性から声を掛けられた。聞けばイヴ・ハリントンという名前で、主演女優マーゴ・チャニングの
大ファンだと言う。カレンはイヴをマーゴに紹介してやった。 |
マーゴの楽屋へ通されたイヴは、皆に促されて身上話をした。その話はマーゴやリチャーズ
夫妻の同情を引くのに十分な内容であった。 |
マーゴの恋人で演出家のビル・サンプソンが
楽屋に姿を現した。イヴはマーゴに請われ、仕事でハリウッドへ向かうビルの見送りに同行した。 |
イヴはマーゴの付き人として雇わられた。イヴの仕事ぶりは申し分なかったが、あまりの如才
のなさにマーゴは一抹の不安を覚え始めていた…。 |
マーゴの家でビルの誕生日パーティーが開かれた。マーゴはビルが年下であることを気に病ん
でいたが、彼が年若いイヴと談笑しているのを見て気分を害し 、やけ酒をあおって来客たちに当たり散らした。
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マーゴは舞台製作者のマックス・フェビアンに
イヴを引き取るように話をつけた。その頃、イヴはマーゴの代役として推薦して欲しいとカレンに頼み込んでいた。
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舞台の共演者交代に伴うオーディションの日。遅刻したマーゴはイヴが自分の代役
をこなしてオーディションが行われたことを知った。皆がイヴの演技を褒めるのを聞き、マーゴはまたしても荒れてビルとも喧嘩別れしてしまった。
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カレンがマーゴを懲らしめるための悪戯を思いついた。週末をマーゴの別荘で過ごした帰り、
カレンは車のガソリンを抜いてマーゴに舞台を欠勤させた。そして、カレンから連絡を受けていたイヴが代役を務めた。
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公演後の楽屋。イヴはビルを誘惑しようとしたが失敗した。その様子を立ち聞きしていた演劇
評論家のドゥイッ
トは、イヴが自分と同類の野心家であることを見抜いて興味を抱いた。
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ドゥイットはイヴの演技を激賞し、「ベテランが新人の出番を妨げている」と、暗にマーゴ
を批判するイヴのコメントを添えた記事を書いた。マーゴは激怒したが、この記事がきっかけで彼女はビルは仲直りし、カレンもイヴの本性を見抜くこととなっ
た。
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マーゴの代役をクビになったイヴは、ロイドが書いた新作劇の主役に就くためにカレンを脅し
た。 …マーゴにした悪戯の事をドゥイットが記事にすればあなた達は演劇界で立場を失う…。
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新作劇の主役の座を射止めたイヴは、今度はロイドを誘惑しようと試みるが…。
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『イヴの総て』 予告編動画
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◆ 主な出演者など
ドゥイット役 |
ビル・サンプソン役 |
ロイド・リチャーズ役 |
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ジョージ・
サンダース |
ゲーリー・メリル |
ヒュー・マーロウ |
・1946年、雑誌に掲載された短編小説「The Wisdom of Eve」
が原作。著者のメアリー・オルが、オーストリア出身の舞台女優エリザベート・ベルクナーの体験談をもとに執筆した。
(右の写真)マーゴ・チャニングのモデルとなったエリザベート・ベルクナー。ローレンス・オリヴィエ主演の『お気に召すまま』(1936年)等に出演。『逃げ
ちゃ嫌よ』(1935年)でアカデミー賞主演女優賞にノミネートされた。
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・小説の映画化権を取得したジョゼフ・L・マンキーウィッツが自らのアイデアも盛り込んで脚本を執
筆し、20世紀FOX社のダリル・F・ザナックに映画化を打診。
脚本を気に入ったザナックは、自ら脚本の手直しも行い、当初のタイトル「Best Performance」を、「All
About Eve」に変更した。
(左の写真)マンキーウィッツ監督(左)とダリル・F・ザナック
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・イヴ役は、マンキーウィッツ監督の『三人の妻への手紙』(1949
年)でヒロインを務めたジーン・クレインが
候補だったが、彼女が妊娠したためアン・バクスターが起用された。彼女は当初のマーゴ役だったクロー
デット・コルベールに似ている(?)ために起用されたとも言われている。
尚、マンキーウィッツ監督の次作『うわさの名医』(1951年)のヒロインは、候補だったアン・バクス
ターが妊娠したためジーン・クレインが起用された。
(左の写真)ジョージ・サンダース、アン・バクスター
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・アカデミー賞では史上最多の14部門でノミネートされ、『タイタニック』(1997年)に並ばれるまで単独第1位の記録を保持し続けた。
この年は、ブロードウェイの内幕を描いた本作とハリウッドの内幕を描いた『サンセッ
ト大通り』の対決、共に脚本家から監督になったマンキーウィッツとビリー・ワイルダーの
対
決ということでオスカー・レースも大いに盛り上がった。 |
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・『イヴの総て』が、作品賞、監督賞、助演男優賞(ジョー
ジ・サンダース)、脚色賞(マンキーウィッツ)、衣装デザイン賞(白黒部門/イーディス・ヘッド)、録音賞の6部門
で受賞。圧勝だった。 |
・ハリウッドは長い間ブロードウェイと比較され低俗だと軽蔑されていた。1950年頃には
そのような比較もなくなってい
たとは思うが、アカデミー会員の中には演劇の本場ブロードウェイにコンプレックスを抱いている者も多かったよ
うで、身内の内幕を描いた『サンセット大通り』よりも、ブロードウェイへの痛烈なしっぺ返しとも言える本作
の方に票が集まったのも当然の結果だったのかもしれない。
(右の写真)オスカー像を手にするジョージ・サンダースと妻のザ・ザ・ガポール |
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・主演女優賞にベティ・デイビスとアン・バクスター、助演女優賞にセレステ・ホルムとセルマ・リッターがノミネートされた。4人の女優がオスカー候補となったのは、後に
も先にも本作だけであるが、全員が受賞を逃してしまった。
(左の写真)ベティ・デイビス、セルマ・リッター
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・当初、アン・バクスターは助演賞の候補と見なされていたが、会社にプッシュして主演賞の
候補となったものの票が割れて、有力視されていたベティ・デイ
ビスも共倒れした、という映画の内容さながらの逸話が残っている。
(右の写真)セレステ・ホルム、アン・バクスター
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・
映画の中で描かれている‟サラ・シドンズ賞”のサラ・シドンズとは、18世紀のイギリスで大活躍した実在の舞台女優。架空の賞だったが、本作公開後の
1953年にシカゴ劇場の関係者が‟サラ・シドンズ賞”を創設。毎年、舞台で活躍した女優に贈呈されており、セレステ・ホルム(1968年)、
ベティ・デイビス(1973年)も受賞している。
(左の写真)アン・バクスター
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・恋人役を演じたベティ・デイビスとゲーリー・メリルは実生活でも恋に落ち、撮影終了後
に結婚した。デイビスは、マーゴとビルのその後を描いた続編の執筆をマンキーウィッツに依頼していたが、10年後にゲーリー・メリルと離婚。続編を執筆す
る必要はなくなったと告げ
た、とのエピソードも。
(右の写真)ゲーリー・メリル、ベティ・デイビス |
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・1970年、本作をミュージカル風にアレンジしたブロードウェイ劇「Applause」
が公演され、ローレン・バコールがマーゴ役を演じたが、翌年、アン・バクスターがバ
コールから役を引き
継いでマーゴを演じた。
(左の写真)バーバラ・ベイツ、アン・バクスター
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・AFI(アメリカ映画協会)が1998年に選定した
「アメリカ映画100年ベスト100」で第16位に。
・AFIが2003年に選定した「アメリカ映画ヒーロー&悪役ベスト100」でイヴ・ハリントンが悪役の第23位に。
(右の写真)左から、ベティ・デイビス、アン・バクスター、セレステ・ホルム
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・AFIが2005年に選定した
「アメリカ映画名セリフ・ベスト100」で、マーゴが発した「今夜は大荒れだから、シートベルトを着用しなさい。 -
Fasten your seatbelts. It's going to be a bumpy night」
が第9位に。
(左の写真)ベティ・デイビス
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ピック・アップ … セレステ・ホルム
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Celeste Holm 1917
-2012年 (アメリカ)
・ニューヨーク生れ。舞台「Gloriana」(1938年)でブロードウェイ・デ
ビューし、ジーン・ケリーの出世作ともなったミュージカル劇「The Time
of Your Life」(1939年〜)で注目を集めた。
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・リチャード・ロジャース(作曲家)&
オスカー・ハマースタイン(作詞家)の「オクラホマ!」(1939年
〜)に出演。ブロードウェイ・ミュージカルのロングラン記録(当
時)を樹立する大ヒットとなり、彼女も一躍人気スターとなった。
(右の写真)舞台「オクラホマ!」
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・1946年、20世紀FOX社と契約。3作目の『紳士協定』(1947年/
監督:エリア・カザン)でアカデミー賞の助演女優賞を受賞。『三人の妻への
手紙』(1949年/監督:ジョゼフ・L・マンキーウィッツ)では、「あなた方のご主人の内の一人
と駆け落ちします」という手紙の差出人役で声のみの出演をした。 |
・『星は輝く』(1949年)、『イ
ヴの総て』(1950年)でもアカデミー賞の助演女優賞にノミネートされた。『イヴの総て』に出演後は舞
台とTVでの活動が中心となり、映画への出演は、ほぼ5年に1本のペースとめっきり少なくなった。
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・私生活では5度結婚したが、最初の相手は俳優・脚本家・映画監督のラルフ・ネルソン。彼
との間で授かった長男のテッド・ネルソンは、「ハイパーテキスト」
という用語を生み出した情報技術の革新者として知られている。
* ラルフ・ネルソン … 監督としての代表作にシドニー・ポワチエ主演の『野のユリ』(1963年)がある。
(左の写真)アカデミー賞授賞式にて
・2012年、95歳で他界。 |
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