20世紀・シネマ・パラダ
イス
◆ スタン
バーグ&ディートリッヒ 黄金コンビの最高傑作
北アフリカ フランス領のモロッコ
出征中だった外人部隊が町に帰還した。その中には、女たらしとして評判で、上官にも目をつけられている兵士トム・ブラウン の姿も
あった。
モロッコへ向かう客船上
モロッコの上流社会で有名な大富豪ベ
シェール の横を、どこか物憂げな女性が通り過ぎた。ベシェールは女性が落とした荷物と一緒に名刺を差し出した。その場を立ち去った女性は、
名刺を海へ破り捨てた…。
ベシェールは女性の事を船長に尋ねた。
船長 「舞台芸人でしょう…。あの手のタイプは自殺志願者、片道切符の女 と呼ばれています …」。
モロッコのナイトクラブ
ベシェールは軍の副官セザール 夫妻と同席していた。トムが店に入って来ると、セザール夫人が
夫の目を盗み、トムと手を振り合った。トムは副官夫人の愛人でもあった。
楽屋では、あの船上の女性がモロッコでの初ステージの準備中だった。クラブの支配人 「後援者を見つけろ。外人部隊の将校がいい。
兵士は貧乏人のクズばかりだ 」。
アミーが舞台に登場すると野次を飛ばす酔客がいたが、トムが黙らせた。舞台上のアミーは、
そんなトムの行動に気づいていた。
アミーは、♫ 「Quand l'amour meurt 」(愛が終わる時) を歌い、衣装を着替えて、♫ 「What
Am I Bid for my Apple? 」(私のリンゴを買ってくれない?) を歌った。
特等席の客にリンゴを売りにいったアミーは、ベシェールと再会し、誘いを受けたが辞退し
た。
アミーが舞台下の客席へ行こうとすると、支配人が引き留めた。「下の客は金が無いから時間の無駄だ 」 。アミーは忠告を
無視してトムの席へ向かった。
トムは兵士仲間から借金をしてリンゴを買った。アミーがお釣りを手渡したが、その手の中に
は彼女の部屋の鍵が入っていた。
夜遅く、アミーの部屋へ向かうトムの前にセザール夫人が現れたが、トムは夫人を上手くかわ
して、アミーの部屋へ向かった。
トム 「なぜこんな国に流れて来たんだ? 」。 アミー
「なぜ外人部隊に入ったか聞かれたことがある? 」。 トム 「そうだな。俺もそんなことには答えない。過去の話はもう
やめよう 」。 アミー 「女にも外人部隊があるのよ 」。
アミー 「もう一度男を信じさせてくれるの? 」。 ト
ム 「俺には無理だ。適役じゃない。俺を信じる者はバカをみる 」。 アミー 「もう帰って。あなたを好きにな
りそう 」。 トム 「10年早く会いたかったよ 」。
トムが帰った後、アミーは思い直して後を追った。
その時、2人組のモロッコ人が襲ってきた。トムとアミーに嫉妬したセザール夫人が金で雇った男たちだ。トムは2人を撃退したが、1人を刺し殺してしまっ
た。
この一部始終を、セザール副官が物陰から目撃していた。
セザール副官の部屋
トムは乱闘の件で査問されることとなった。セザール副官の部屋には、ベシェールとアミーが証人として呼び出されていた。トムは処
分が決まるまで営倉に入れられた。
アミーの楽屋
トムは軍法会議を免れたが、最激戦地であるサハラ砂漠のアマルファ峠へ送られることとなっ
た。アミーはベシェールからプロポーズされた。
楽屋の外では、トムが2人の会話を立ち聞きしていた。トムが楽屋へ入ると、ベシェールは席
を外した。
トム 「今度は前線から戻ってこれそうもない。君が一緒なら、脱走し
てヨーロッパへでも行こうと思う …」。
アミー 「行くわ 」。
開幕ベルが鳴り、アミーはステージへ向かう。
アミー 「戻るまで待っててね 」。
楽屋に残ったトムは、ベシェールがアミーに贈ったブレスレットを見ているうちに身を引くこ
とを
決意し、口紅で鏡に別れの言葉を書いた。
「I Changed my mind. Good Luck ! 」 ( 気が変わった。達者でな ! )
トムの出征
翌朝。アミーとベシェールが出征する外人部隊を見送りに来た。アミーは、町の女たちに取り囲まれたトムを見つけ、歩み寄った。
アミー 「昨夜はなぜ帰ってしまったの? 」 。
トム 「ヤボ用があってね 」 。
出征する兵士たちの後に荷物を抱えた女たちが続いて行く。
ベシェール 「ついて行っても男が死ぬ場合も多い 」。
アミー 「正気の沙汰じゃないわ 」。
ベシェール 「どうかな…、愛しているからだろう 」。
アミーは、去っていく部隊と女たちをいつまでも見つめていた。
トムが出征してからの3週間、アミーは酒浸りの生活を送っていた。
ベシェール 「もう忘れることだ 」。
アミーは手にしていたグラスの酒を、トムの伝言が書かれた鏡に投げつけた。
一方、戦地のトムは、隙あらば彼を殺そうと企んでいるセザール副官に危険な任務を命じられたが、敵兵の弾に当たって命を落としたのはセザール副官の方だっ
た。
アミーはベシェールと婚約し、その祝いの宴の夜。
ベシェールからトムの部隊が帰還すると知らされたアミーは、「気にしないで 」と言って、客が待つ会場へ向かった。
晩餐会の最中、外人部隊の行進曲が聞こえて来た。アミーは思わず立ち上がり、一心不乱に外
へ飛び出した。夢中でトムの姿を探したが、彼は負傷してアマルファに残ったと知らされた。
アミーがアマルファへ発つと告げると、ベシェールは同行を申し出た。
アマルファに着いたアミーとベシェールは病院へ直行したが、トムの姿は見当たらなかった。
ト
ムは、アミーのいる町へ戻りたくないので、負傷したと偽り、別の部隊に配属さ
れていた。 酒場でやけ酒をあおりながら、テーブルにアミーの名前を刻んでいると、そこへアミーが現れた。
アミー 「なぜ部隊と戻らなかったの 」。 トム 「…あの金持
ちとは結婚しないのか …。幸せになってくれ 」。
兵舎に戻れとの命令でトムは立ち去った。アミーはテーブルに刻まれた自分の名前を見つけ、トムの本心を知った…。
翌朝。前線へ出征するトムを見送りに来たアミーとベシェール。アミーとトムが別れの言葉を
交わして間もなく、集合ラッパが鳴り響
いた。
別れの挨拶を送り合うトムとアミー。楽隊の行進曲が鳴り始め、砂漠の中を出征していく外人
部隊…。
『モロッコ』 予告編
VIDEO
◆ 主な出演者など
・ジョセフ・
フォン・スタンバーグ監督とマレーネ・ディートリッヒの黄金コンビが
ハリウッドで撮った最初の作品。
アカデミー賞では、主演女優賞、監督賞、撮影賞、室内装置賞の4部門でノミネートされたが
受賞には至らなかった。
・日本では、初の字幕スーパー作品として公開され、キネマ旬報社のベストテンで第1位(1931年度) に選出された。
・マレーネ・ディートリッヒの男装は本人のアイデアだった。
ディートリッヒが客席の女性にキスをするシーンはセンセーションとなったという。
それにしても、男装の麗人ディートリッヒが煙草を吸う姿の何とも粋なこと。
・ゲーリー・クーパーは自ら売り込んで役を得た。
女たらしの兵士を嫌味なく好演し、特に日本では、本国でのそれを上回る人気を獲得。
当初は助演扱いだった映画のポスターに大和撫子たちから抗議が殺到し、慌てた映画会社がポスターを作り直したというエピソードも。
・ディートリッヒとクーパーは6年後に『真珠の頸飾』(監
督:フランク・ボー
ゼージ ) で再共演をした。
2人は同じ1901年生まれ。クーパーが5月、ディートリッヒが12月生まれ。
・映画史に残る名ラストシーン。
兵士集合のラッパが吹かれてからは、サイレント映画さながら台詞が一切なし。聞こえるのは楽隊が奏でる行進曲と砂漠に吹く風の音だ
け。
途中でハイヒールを脱ぎ捨て、裸足で部隊の後
を追うアミーの姿が砂漠の中に消えていくなか、行進曲の音色もフェードアウトしていき、最後は風の音だけに。見事な演出。