20世紀・シネマ・パラダ
イス
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情婦
Witness for the
Prosecution
監督:ビリー・ワイルダー
(1957年/アメリカ)
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◆ 観客を見
事に騙した法廷ミステリーの傑作
1952年のロンドン。病で入院していた弁護士のウィルフリッド卿は、口うるさい看護婦のプリムソルに付き添われて退院して早々、未亡人のフレンチ夫人殺害の容疑でマークされている男性から弁護を依頼された。 |
依頼人は元軍人で現在は無職のレナード・ヴォール。ヴォールはフ
レンチ夫人と知り合った経緯を話し、自分にはアリバイがあるし、殺す動議がないと主張した。しかし、フレンチ夫人がヴォールに遺産を相続させる旨の遺書を
残していたことが発覚し、ヴォールは逮捕された。 |
ヴォールの妻クリスチーネが
ウィルフリッド卿を訪ねて来た。彼女は母国のドイツに正式な夫がいるため、ヴォールの本当の妻ではないという。ヴォールのアリバイを証明できる唯一の人物
であるが、証人として不適切な様子だった。ヴォールは極めて不利な状況だが、ウィルフリッド卿は彼の無罪を信じて弁護を引き受ける覚悟を決めた。 |
ウィルフリッド卿は拘置所のヴォールと面会し、彼がクリスチーネ
と出会った経緯を聞かされ
た。
…大戦中の1945年、ドイツに派遣されていたヴォールは、酒場の歌手だったクリスチーネと出会い結婚したという…。
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裁判が始まった。事件を捜査した刑事部長、フランチ夫人宅の使用人等が検察側の証人として
証言したが、ウィルフリッド卿の巧みな弁護もあり、有罪・無罪のどちらに転んでもおかしくない状況が続いた…。
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裁判の3日目。クリスチーネが検察側の証人として登場した。彼女は、結婚
(2重結婚)により混乱していたドイツから救い出してくれたことに恩を感じてはいるものの愛してはいないと語り、ヴォールのアリバイを覆す証言をした。
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被告のヴォールが証言台に立った。事件の1週間前にヴォールが黒髪の若い女性と豪華客船旅行の案内を受けていたことが検察によって明らかにされた。ヴォー
ルは遺産
相続人となっていたことを知らなかったと主張しているが、大金が転がり込んでくることを予期していたと思われても仕方がない話だった。
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ヴォールの有罪が濃厚となった。その日の夜、ウィルフリッド卿は
クリスチーネに恨みがあるという匿名の女性に呼び出され、クリスチーネが書いたという手
紙を入手した。
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結審日。ウィルフリッド卿はクリスチーネの手紙を重要証拠として提出した。彼女が愛人に宛
てたもので、「私が偽証すればヴォールは有罪…。私は自由の身となって貴方のもとに…」と書かれてあった…。
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『情婦』 予告編
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◆ 主な出演者など
・原作は、‟ミステリーの女王”アガサ・クリスティの「検察側の証人」。1948年に短編
小説として発表され、その後、クリスティ自身が戯曲を執筆した舞台劇がロンドン(1953年)、
ブロードウェイ(1954年)で上演され、大ヒットした。映画でフレンチ夫人宅の使用人ジャネット
を演じたユーナ・オコナー (本作で引退)は舞台劇にも出演していた。 |
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ア
ガサ・クリスティ |
ユー
ナ・オコナー |
・映画では、口うるさい看護婦のプリムソルを新たに登場させ、ウィルフリッド卿と丁々発止
のやりとりをさせることで、いかにもハリウッド的な作品となった。名脚
本家でもあったビリー・ワイルダー監督が真骨頂を発揮したと言える。ちなみに、エルザ・ランチェスターとチャールズ・ロートンは実生活では夫婦であり、本
作が最後の共演作となっている。 |
・アガサ・クリスティはイギリスの作家で、本作の舞台はロンドン。サスペンスの名作を
数多く撮ったイギリスのキャロル・リード監督あたりが原作を忠実に映画化していたら、もう
少しシリアスな作風になっていたであろうし、それはそれで見応えのある作品になっていたのかもしれない。 |
・ヴォールとクリスチーネがドイツの酒場で出会う回想シーンも映画で新たに加えられた場面
で、タイロン・パワーとマレーネ・ディートリッヒの際どい宣伝用写真が何枚か撮られている。邦題が『情婦』
となったのは、これらの写真の影響かもしれない。映画を観る限り、原題通り「検察側の証人」という邦題で良かったような気がする。タイロン・パワーは次作
の『ソロモンとシバの女王』の撮影中に心臓麻痺で急死 (44歳)。本作が
遺作となった。
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『ソロモンとシバの女王』(1959年)
… ユル・ブリンナーが代役を務めた。 |
・ミステリーは結末が意外であればある程おもしろい。本作は、「うわぁー、騙された」
だけで終わらないところが人気の所以だが、ビリー・ワイルダー監督は、その時が来るまで、脚本の最後の数ページを出演者たちにも見せずに撮影を進めていた
という。「結末は他人には話さないで下さい」との宣伝文句も話題になった。 |
・アカデミー賞では、作品賞、監督賞、主演男優賞(チャールズ・ロートン)、助演女優賞(エルザ・ランチェスター)、
編集賞の6部門でノミ
ネートされたが、全て受賞は逃した。 |
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・AFI(アメリカ映画協会)が2008年に選定したジャンル別
ベスト10の「法廷ドラマ」で第6位に。 |
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