20世紀・シネマ・パ
ラダ
イス
◆ 人気絶頂のバーグマンがスパイに扮し、大ヒットした傑作サスペンス
1946年、フロリダ州マイアミ。ドイツ人の父親がナチスのスパイで有罪となったアリシア・ハバーマン は、マスコミや警察に付け回されることとな
り、 憂さ晴らしに開いたホーム・パーティーでデブリンと
いう男と知り合った。
デ
ブリンは諜報機関 の職員で、かねてよりハバーマン親子を捜査しており、母親がアメ
リカ人のアリシアは父親の行為を憎んでいたことを知っていた。デブリンの任務はブラジルで暗躍しているナチスの残党を一掃することだ。捜査への協力を求め
られた アリシアは承諾した。
注) 諜報機関 … 当時はまだCIA が設立されておらず、あえて推察すればCIA の前身で
もあるOSS (軍の戦略諜報局)。
2人はリオへ飛び立った。そして、恋に落ちた。デブリンは上司のポール に呼び出され、アリシアの任務はナチス残党のセバス
チャン に近づき、彼の行動を探ることだと知れされた。セバスチャンはアリシアの父親の友人
で、かつてアリシアを見初めていたという。デブリンはアリシアの身を案じ、逡巡しながらも彼女に任務を伝えた。
アリシアとデブリンはセバスチャンが出入りしている乗馬クラブを訪れた。アリシアと4年
ぶりに再会したセバスチャンは、案の定、彼女にアプローチしてきた。アリシアはセバスチャン邸での晩餐会に招待された。
セバスチャン邸での晩餐会。ダイニング・ルームでワインボ
トルを見たセバスチャンが、係のフプカを厳しく問い詰める様子を目撃したアリシアは疑念を抱いた。
デブリンは表向きは航空会社の職員となって定期的にアリシアと密
会して報告を受けていたが、任務のためとはいえ彼女がセバスチャンと親密になっていく様子を黙って見守るしかなく、その胸中は穏やかではな
かった。
アリシアはセバスチャンからプロポーズされた。彼女は諜報機関の
事務所を訪れ、デブリ
ンが結婚に反対しないことを確かめた後、任務を遂行するためプロポーズを受けることを決意した。
セバスチャン夫人となったアリシアは、邸宅内を自由に歩き回るこ
とが出来るようになった
が、酒蔵の鍵だけはセバスチャンが保管していた。
やはりワインボトルが疑わしい。報告を受けたデブリンは、邸宅で新婦のお披露目パーティーを開催するよう指示を出した。
パーティー当日。アリシアはセバスチャンのキー・ホルダーから酒
蔵の鍵を抜き取り、パー
ティーに来たデブリンに手渡した。
しかし、アリシアとデブリンの仲を疑っているセバスチャンが、常に目を光らせていた。
2人はセバスチャンの目を掻い潜り、酒蔵に潜入した。
デブリンがうっかりワインボトルを床に落としてしまったが、割れたボトルから出てきたのは砂のようなものであった。
その時、誰かが近づいてくる足音が聞こえた。セバスチャンだ。
酒蔵から出た2人はとっさにキス・シーンを演じ、セバスチャンの
注意を酒蔵から逸らすこと
に成功した。だが、パーティーの終盤、セバスチャンはシャンパンを補充するため再び酒蔵へ行き、ホルダーから鍵が無くなっていることに気が付いた。
夜中にベッドから抜け出したセバスチャンは、鍵が戻っていること
を確認し、酒蔵へ行った。
やはり、極秘の物資が探られた形跡があった。
アリシアがスパイだったことに気付いたセバスチャンは、母親に助けを求めた。
アリシアを始末することは容易だが、急死の場合は不審を招く。彼
女がスパイだったことが
バレると、フプカ同様、自分が組織に抹殺されてしまう。
セバスチャンと母親はアリシアを徐々に死へと追いやるため、彼女のコーヒーに毒を盛り始めた。
ワインボトルの中身はウラニウムの原鉱 であった。
アリシアはその出所を探るように依頼されたが、彼女の身体は毒によって蝕まれ始めていた。更に、アリシアはデブリンが自らスペインへの転勤を
申し出たことを知らされた。
デブリンはもはや自分を愛していないのではないか?
アリシアは精神的にも追い詰められた。
ある晩、アリシアはコーヒーに毒を盛られていたことに気が付いたが、時すでに遅しであった。
注) ウラニウムの原鉱 … ナチスの残党が原子力爆弾の製造に着手していたことを暗示している。
アリシアは歩くこともままならない容態であり、部屋の電話も取り
払われてしまった。絶体絶
命のアリシア…。
『汚名』 予告編
VIDEO
◆ 主な出演者など
・原作は1921年に「サタデー・イヴニング・ポスト」
誌に掲載された小説「龍の歌」。
サイレント期に『舷々相摩す』(1927年) と
して映画化もされており、こちらは舞台が第1次世界大戦中で、祖国や出征した恋人のためにスパイとなりドイツ軍将校に近づいた女性が、恋人から売国
奴と見なされてしまうが、戦後に嫌疑が晴れて恋人とよりを戻すというストーリーだった。
(右の写真)左から、ケーリー・グラント、イングリッド・バーグマン、アルフレッド・ヒッチ
コック監督
・原作の映画化権を取得していたデビッド・O・セルズニック は、自身の会社で製作する予定だったが、『白昼
の決闘』(1946年/監督:キング・ヴィダー ) の
製作資金を確保するため映画化権をRKO社に売却。完成したフィルムには、「By arrangement with David O.
Selznick」と表記されている。
(左の写真)
左から、ケーリー・グラント、ルイス・カルハーン、イングリッド・バーグマン
・脚本は、ヒッチコック監督とバーグマンが組んだ前作『白い恐怖』 (1945年/製作:デビット・O・セルズニッ
ク) に引き続
き、
ベン・ヘクトが執筆。
衣装デザインはパラマウント社の売れっ子イーディス・ヘッド が担当し、以後、
ヒッチコック作品の多くを手掛けることとなった。
(右の写真)手前の3人。左から、イーディス・ヘッド、ヒッチコック監督、イングリッド・バーグマン
・アカデミー賞では、助演男優賞(クロード・レインズ) 、
脚本賞の2部門でノミネートされたが、受賞には至らなかった。
(左の写真)ケーリー・グラント、イングリッド・バーグマン
・小道具の酒蔵の鍵は、撮影後に保持していたケーリー・グラントがラッキー・アイテムと
してイングリッド・バーグマンに贈呈。そして、ヒッチコック監督がAFI(アメリカ映画協会) の生涯功労
賞を受賞(1979年) した際に、バーグマンからヒッチコック監督に贈呈された。
◆ ヒッチコック監督 お約束のカメオ出
演シーン
・セバスチャン邸でパーティーの客として登場。シャンパンを飲み干して退出した。
(左の写真)ヒッチコック監督のカメオ出演シーン