20世紀・シネマ・パラダ
イス
◆ 根強い人気を誇る悲恋ロマンスの古典的名作
1939年9月3日のロンドン。イギリスがド
イツに宣戦布告した日の夜。
英国陸軍のロイ・クローニン大佐は、出征のため軍用車で駅へ向かう途中、ウォータールー橋で
車から降りた。その場所は、彼にとって忘れることの出来ない思い出の地だ。胸の内ポケットから人形を取り出した大佐は、その人形の持ち主だった女性と過ご
した日々を追想していた…。 |
1917年のロンドン。フランス戦線への出征
を明日に控えたロイ・クローニン大尉が、ウォータールー橋で一服していると、空襲警報が鳴った。避難する途中で、ハンドバックの中身(人形も)を落とした女性を助け、一緒に地下街へ避難した。 |
彼女の名はマイラ・レスター。
マダム・キロワ・バレー団の踊り子だ。空襲が止み、マイラはタクシーで劇場へ向かうことに。別れ
際、マイラは大切にしていた幸運のお守りの人形をロイに贈った。 |
マイラが舞台(「白鳥の湖」)で踊っていると、観客席に、大佐と食事の約束があるので来ら
れないと言っていたロイの姿があった。 |
公演後、マダム・キロワによる
反省会が開かれている楽屋に、マイラ宛の手紙が届いた。マイラは皆の前で声を出して手紙を読むよう命じられた。ロイからの食事の誘いの手紙だった。踊り子
たちの異性交際を禁じているマダム・キロワは、マイラにその
場で断りの手紙を書かせた。 |
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断りの手紙を受け取ったロイが立ち去ろうとした時、マイラの友人キティに呼び止められた。マイラの代わりに食事の場所を聞きに来たのだった。
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「マイラは純粋な子よ」
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「ああ、分かっているよ」
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ロイとマイラは‘キャンドルライト・クラブ’で食事を楽しみ、その夜の最後の曲
「別れのワルツ (蛍の光)」
に合わせて踊った。楽団員たちがキャンドルの灯を次々と消していき、店内が暗くなった時、2人は唇を重ねた。
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ロイはマイラを宿舎まで見送った。明日は出征だ。もう会うことはないだろう。2人は名残り
を惜しみつつも別れた。
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翌日。マイラはマダム・キロワに朝帰りを咎められ、同じ事を繰り返したら即刻クビだと注意
を受けた。気落ちしていたマイラが何気なく窓から外を眺めると、雨の中にロイが佇んでいた。大慌てで外出の支度を整えると、彼女はロイの元へ駆け寄った。
ロイの出
征は、
魚雷除去のため、2日後に延期されたのだった。
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「質問、疑問は無用だ…。君
は私と結婚するんだ」
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「わかったわ」
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2人は車で兵舎へ向かった。ロイは将校なので、結婚には上官の許可が必要なのだ。(マイラ
の
両
親は既に亡くなっている)。上官の大佐から、連隊長の許可を貰うようにと言われたロイは、自身の叔父でもある連隊長
を訪ね、結婚の許可を得た。
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マイラとロイは教会を訪ねたが、3時以降の結婚は法律で禁止されており、明日の11時に再
訪することになった。
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宿舎へ戻ったマイラは、団員たちから婚約を祝福された。そこへロイから電話が入った。急
遽、今夜出征する
こ
とになったとのことだ。舞台を欠席すればクビだ。しかし、戦場へ赴くロイとの最後の別れになるかもしれない。マイラは皆の制止を振り切って、ロイを
見送るため駅へ向かった。
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マイラが駅に着いた時、列車は既に動き出していた。2人は、お互いの顔を一瞥しただけの別
れ
となってしまった。
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重い足取りで楽屋へ行ったマイラ。マダム・キロワはマイラの行動を許さずクビを言い渡し、
その事に抗議したキティもクビにされてしまった。
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その後、マイラとキティは仕事に就くことが出来ないでいた。キティはロイにお金を無心する
ことを
提
案したが、マイラは乗り気でなかった。ロイから花束と手紙が届いた。スコットランドにいるロイの母親がマイラに会いに来るとの知らせだった。
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マイラはカフェでロイの母親と会うことにしたが、母親はなかなか現れなかった。
店員が持ってきた新聞に目をやると、戦死者報告欄にロイの名前が…。
マイラは気を失ってしまったが、店の女主人がワインを飲ませてくれて意識を回復した。
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漸くロイの母親が現れた。マイラは母親を気遣い、新聞を隠した。気が動転しているマイラは
まともな対応が出来ず、ロイの母親は気分
を害して席を立ってしまった。その後、マイラは再び気を失って倒れてしまった。
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マイラは体調を崩して寝込んでしまい、キティは2人の生活を支える為、夜の女となった。マ
イラには踊り子の仕事を見つけたと嘘をついていたが、バレてしまった。
生活のため、そして、ロイの死による絶望感から、マイラもいつしかキティと同じ道へ踏み込んでいった…。
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…月日は流れ、マイラはすっかり夜の女に成り果てていた。いつものようにウォータールー駅
へ行き、客となる帰還兵を出迎えていた時、戦死したはずのロイが目の前に現れた。
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マイラは再びロイの胸に抱かれた。ロイはドイツ軍の収容所からスイスに脱
出したが、認識票を紛失したため戦死との誤
報が出たのだった。ロイは、連絡の取れなくなったマイラの事を、母親共々案じていたのだった。
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マイラと再会できた嬉しさでいっぱいのロイは、居ても立ってもいられず、その場で母親に電
話をかけた。ロイは、マイラを実家へ連れて行くと言う。しかし、自分の身を恥じているマイラは一緒に行けないと告げた。
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「君も僕と同じ気持ちだと勝手に信じていた…。
誰かいるんだろ?…。僕が死んだと思っていたから」
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「ありえない。私が愛しているのはあなただけよ。
これからもずっと。これは真実よ」
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マイラがロイと結婚すると聞き、「上手くいくはずがないわ」
と言っていたキティも、マイラの決心を聞き、最後は励ましの言葉で送り出してくれた。
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ロイの実家は先祖代々伝わる広大な敷地と大邸宅のある由緒正しき家柄だった。その夜、ク
ローニン家では、婚約者お披露目の舞踏会が開かれた。ロイの母親もマイラを見直し、気にいった様子だった。
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幸福感でいっぱいのロイとマイラ。しかし、ロイは、マイラが時折見せる不安げな様子が気に
なっていた。
「君の瞳に恐れがあるのはなぜだ? 君は辛い体験をしてきた。でももう終わったんだ。恐れることはない」。
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クローニン家親族の長であり、公爵でもあるロイの叔父が姿を現した。叔父は、皆の前でマイ
ラとダンスを踊ることで、彼女を歓迎したことを示して見せた。
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叔父が、制服の左腕に刺繍されたクローニン家の紋章を示しながら語った。
「ロイも私も、
あなたが紋章を汚す女性ではないと、本能的に見抜いている」。
マイラの顔が曇った。再び、不安と恐れがもたげてきたのだった。
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舞踏会場から「別れのワルツ」が流れてきた。ロイがリクエストしたのだ。ロイに誘われダン
スをするマイラ。しかし、ロイの左腕の紋章を見つめる彼女の顔からは笑顔が消えていた。
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その日の夜。マイラは部屋で1人悩み、苦しんでいた。
ロイの母親が訪ねて来た。ロンドンでの初対面の時の誤解を解きに来たのだった。
母親の優しさ、善良さが、揺れ動いていたマイラの心を決することとなった。
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マイラは母親の後を追って彼女の部屋へ行き、結婚出来ないと告白した。
「来て
はいけなかった…」。「貧乏な上、彼は戦死したと思っていた…。でもそれは言い訳 」。
ロイの母親は全てを理解した。
マイラは嘆願した。「彼には言わないで…。苦しめたくない」。「望み通りの嫁になりたかった」。
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自分の部屋へ戻る途中、2度と会うまいと心に決めていたロイが階段を上がって来た。泣き顔
を見られてはならない。マイラは足早に部屋に向かったが、ロイに呼び止められてしまった。必死で笑顔を取り繕うマイラ…。
ロイはポケットからお守りの人形を取り出し、マイラに手渡した。「次は君が幸せを手に入れるんだ」。
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ロイ「おやすみ 」。 マイラ「さようなら」。 ロイ
「さようなら?」。 マイラ「少しの間でも永遠の別れに感じるわ」。 2人は最後の口づけを交わした。
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マイラは置き手紙を残して、翌朝1番の列車でロンドンへ発った。
「この感謝の気持ちは上手く表現できません。でも私達に未来はありません。これ以上書けません。さようなら」。
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ロイはマイラを追ってロンドンへ行き、彼女のアパートでキティと会った。
ロイ 「わからない事がある。君なら答えられるはずだ…」。
キティ 「何を聞いても受け入れられる?」。
ロイ 「何を聞こうと彼女を探し出す」。
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キティはロイを連れて、マイラが立ち寄りそうな場所を探して回ったが、マイラを見かけた
者は1人もいなかった。2人は最後にウォータールー駅へ向かったが、マイラの消息を掴むことは出来なかった。ロイはキティから事情を聞くまでも無く、マイ
ラが去った理由を察していた。
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「私怖いわ。彼女どこへ行ったの?…。彼女には耐えられない
わ。正直すぎるのよ」
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「私達の前から姿を消したんだ…。私は探し続ける…」
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霧の濃い夜。マイラは、ロイと出会った思い出の場所であるウォータールー橋に1人佇んでい
た…。
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『哀愁』 予告編
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◆ 主な出演者など
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・マイラ・レス
ター役 … ヴィヴィアン・リー
・ロイ・クローニン役 … ロ
バート・テイラー
・キティ役 … ヴァージニア・フィールド
・叔父役 … C・オーブリー・スミス
・母親役 … ルシル・ワトソン
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『哀愁』 淀川長治さんの解説
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・1930年にブロードウェイで上演されたロバート・E・シャーウッドの戯曲「Waterloo
Bridge」の2度目の映画化。最初の映画化作品の邦題は『ウォタルウ橋』(1931年)。『フランケンシュタイン』(1931年)の
メイ・クラークがヒロインを演じた。『哀愁』のラストで、マイラに話しかける老婆を演じたリタ・カーライルは、『ウォタルウ橋』
にも出演している。
(右の写真)『ウォタルウ橋』
メイ・クラーク、ケント・ダグラス(=別名ダグラス・モンゴメリー)
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・淀川長治さん曰く、ヴィヴィアン・リーは、エリザベス・テイラー、マリリン・モンローと並ぶ映画史上の3大美女。そして、ロバート・テイラーは、頭から
足の
先まで美男子。
当時、ヴィヴィアン・リーは26歳、ロバート・テイラーは28歳。両人とも、自身の出演作品の中で最も好きな作品が『哀愁』だった。
(左の写真)左から、ロバート・テイラー、マーヴィン・ル
ロイ監督、ヴィヴィアン・リー
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・ヴィヴィアン・リーとロバート・テイラーは、『響け凱歌』(1938年)以来の再共演。『響け凱歌』は、ヴィヴィアン・リーが『風と共に去りぬ』(1939年)で
大ブレイクする前の作品で、彼女は準ヒロインだった。
(右の写真)『響け凱歌』 ロバート・テイラー、ヴィヴィアン・リー
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・『哀愁』は、アカデミー賞では、撮影賞(白黒部門)と
作曲賞の2部門でノミネートされたが、受賞には至らなかった。
「別れのワルツ (蛍の光)」の原曲はスコットランドの民謡。主人公ロイの故郷がスコットランドという設定のため選曲されたものと思われる。
(左の写真)左から、ヴィヴィアン・リー、マーヴィン・ルロイ監督、ロバート・テイラー |
・『哀愁』、映画を生かす名邦題。何度観ても、「別れのワルツ
(蛍の光)」の調べと共に、余韻が残る愛の名作。
・「質問、疑問は無用だ…。君
は私と結婚するんだ」。すごいプロポーズ。もし断わられたら、滅茶苦茶カッコ悪いですね(笑)。 |
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◆ ギャラリー
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