20世紀・シネマ・パ
ラダ
イス


◆ 戦争による大量殺人を批判したブラック・コメディ
今は亡きアンリ・ヴェルドゥは、
30年務めていた銀行をクビになってから、家族を養うため女性を殺害して金を奪う‟青髭”ごときの生活を送っていたという…。 |
北フランスのワイン商クーヴェ家では、新婚旅行に出かけて以来、
3ヶ月間消息の無いセルマの事を案じていた。 |
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その頃、セルマと結婚したパリの家具商ヴァネイことヴェルドゥは南フランスの別荘にいた。
庭の焼却炉からは、この3日間絶えることなく煙が出続けてい
た。 |
売出し中の別荘を見学に来たグロネイ夫人が
未亡人と知ったヴェルドゥは猛然とアタックしたが、この時は失敗に終わった。 |
セルマの銀行預金を入手したヴェルドゥは、パリで骨休みをしていたが、金を預けている証券
会社から連絡が入り、損失補てんのため大金を調達しなければ
ならなくなった。 |
各地に妻がいるヴェルドゥは3ヶ月ぶりにコルベイユのリディアのもとへ行った。そして、不況で銀行が潰れるとそそのかして預金を下ろさせ、その日の夜に殺害し
た。 |

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ヴェルドゥは久方ぶりに本妻のモナと
息子が待つ実家へ帰った。その日は結婚10周年の記念
日で、ヴェルドゥは足の不自由な妻に土地と家の権利書をプレゼントした。
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ヴェルドゥは次の仕事のためリヨンのアナベ
ラを訪ねた。彼女には自分は船長だと偽っている。夜、アナベラを殺めようとした時、クビにしたメイドが宿を求めて帰って来たため、殺人は
未遂に終わった。
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パリへ戻ったヴェルドゥは、グロネイ夫人の自宅を調べ、再アタッ
クしたが、またしてもフラれてしまった。
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実家へ帰ったヴェルドゥは、友人の薬剤師から、飲めば1時間程後に心臓発作を起こして証拠
も残らないという毒薬の製造方法を教わり、パリに戻って毒入りワインを作った。
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ヴェルドゥは夜の街で雨宿りをしていた女性を拾った。戦争で夫を亡くした若い未亡人で、刑務所から出て来たばかりだと言う。毒薬の実験台として最適だ。ヴェルドゥは彼女に食事と
毒入りワイン
を差し出したが、彼女の話を聞くうちに思い止まり、別れ際にはお金を恵んでやった。
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フランスでは、この3年間に金持ちの中年女性が10人以上も消息不明となっていた。ある
日、ヴェルドゥをマークしていた刑事が訪ねてきた。殺人の証拠は無いが重婚罪で連行するという。ヴェルドゥは刑事に毒入りワインを飲ませて殺害した。
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ヴェルドゥはアナベラを訪ね、毒入りワインを飲ませた。しかし、彼女は死ぬ気配すら見せな
かった…。
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そ
れもそのはず。知らぬ間にメイドが毒入りのビンを取り変えていたのだった。
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ヴェルドゥはアナベラと田舎へ療養に行き、ボートの上で彼女を殺害しようとしたが、またも
失敗に終わった。
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ヴェルドゥはグロネイ夫人に花を贈り続けていた甲斐あって、漸く彼女に受け入れられた。2
人は友人宅で結婚式を挙げることになったが、招待客の中にアナベラの姿を発見したヴェルドゥは、その場からトンズラした。
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フランスが大恐慌に陥り、株価が暴落。ヴェルドゥは破産し、妻子
を失ってしまった。
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ある日、ヴェルドゥは、かつて食事とお金を恵んでやった若い未亡人と再会した。今や軍需産
業会社の社長夫人となっていた彼女は、ヴェルドゥを食事に誘っ
た。
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2人の入ったレストランに、ヴェルドゥの顔を知っているクーヴェ家の人間がやって来た…。
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『殺人狂時代』 予告編
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◆ 主な出演者など
リディア役
マーガレット・ホフマン
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妻のモナ役
メイディ・コレル
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アナベラ役
マーサ・レイ |
若い未亡人役
マリリン・ナッシュ |
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・なぜ映画の舞台がフランスで、タイトルもフランス語なのかと言えば、主人公のヴェルドゥ
にはモデルがおり、その人物が「ガンベの青髭」
ことアンリ・デジレ・ランドリュー (1869-1922)だから。
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ガンベ … Gambais フランスのパリ郊外の地名
(右の写真)左から、メアリー・ピックフォード、チャップリン、
ウーナ夫人。本作のプレミア試写会時。
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・「ガンベの青髭」ランドリューは、1915年からの4年間で11人を殺害。被害者の1人
は子共だが、あとの10人は中年女性。ランドリューは彼女たちの財産で生計を立
てていた。
映画の中で焼却炉から煙が出ているシーンがあるが、ランドリューは被害者の遺体を大型ストーブで焼却していたという…。ランド
リューはギロチン刑に処せられている。 |
・チャップリンは1942年にオー
ソ
ン・ウェルズか
らランドリューをモデルとした映画の主役を打診されたが断っている。その後、ウェルズに原案料を支払い、自ら脚本を執筆したのは第2次世界大戦の影響だ
とされている。単なる殺人鬼のストーリーではなく、戦争による大量殺人を批判するメッセージを込めたブラック・コメディの名作に仕上げた。
(右の写真)チャップリンとオーソン・ウェルズ(右)
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・チャップリンは、かつての銀幕でのパートナー、エドナ・パーヴィアンスをグロネイ夫人役に起用するつもりでスクリーン・テストを実施
したが、役柄のイメージと違い実現しなかった。
尚、エドナが結婚式の招待客の1人としてエキストラ出演しているという説もあるようです。 |
・公開当時、チャップリンは‟赤”とのレッテルを貼られていたこともあって興行的には惨敗
し、アカデミー賞においても脚本賞のノミネートだけにとどまった。
フォード、キャプラ、ワイラー、ヒッチ
コックといった名匠たちの戦後第1作目がこぞって公開された前年に比べ、1947年度のハリウッド映画は今一つ見劣り
する作品群だった。 |

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・チャップリンへの不当なバッシングがなく真っ当な評価をされていたら、興行面は勿論、賞
レースにおいても、もっと良い成績を得ていたはず。
日本では1952年(昭和27年)に公開され、キネマ旬報ベスト・テンで、『第三の男』、『天井桟敷の人々』といった英・仏映画の金字塔とも言える作品を抑え
て、堂々の第1位に選出された。 |
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